去る10月16日にPullman Melbourne on the Parkにて開催されたSpring Gala Dinner(豪日協会・メルボルン日本商工会議所、日本人会共催)の特別ゲスト、草賀駐オーストラリア特命全権大使による当日の挨拶文(原文英語)の主にビジネス関係部分を抜粋した概要の日本語版をご紹介します。
外務省入省後、1981年に最初の海外赴任地としてキャンベラで外交官としてのキャリアを開始された草賀大使は、その34年後である今年4月に特命全権大使としてオーストラリアに着任されました。
過去2年間、安倍首相とアボット前首相の緊密な協力体制で日豪二国間関係は以前にも増して強化されました。後任のターンブル新首相も、首相就任わずか数日後の9月18日に安倍首相に電話し、二国間関係を前進させるための全面的なサポートを表明しました。また先般の国連総会時に開催された岸田外務大臣とビショップ外相の九回目の会談となる昼食会の席で、ビショップ外相はターンブル新政権が日豪関係を引き続き重視することを明言しています。日本とオーストラリアは、共通の価値観と民主主義、人権、法の支配、および自由市場経済などの戦略的利益に基づいた、長年にわたる非常に強力な相互補完的関係を享受しています。
経済面でも、日豪両国は貿易・投資パートナーとしての長く緊密な歴史を享受しています。9月14日、首相交代が起こったその日に、アンドリュー・ロブ貿易・投資大臣は議会で演説を行いました。その中で1901年にオーストラリアでビジネスを開始した三井物産について「長期的かつ成功した投資の偉大な例」として讃えました。また1963年、日豪経済合同委員会が発足、両国の経済・貿易関係発展に大きく貢献しています。先日、第54回日豪合同ビジネス協議会が来年メルボルンで開催されると発表されました。私は10日前に福岡で開催された第53回同会議に出席し、TPP交渉の大筋合意という素晴らしいニュースを日豪300名以上の経済関係者及びビクトリア州政府大臣2名とも分かち合うことができました。
近年、両国の経済関係は、ここビクトリア州を中心にエネルギー、資源、自動車、貿易の中心分野から農業、インフラなどの分野にも拡大しています。例えば、三菱商事と住友商事は共に同州に穀物倉庫・販売本部を保持、伊藤忠は酪農生産に投資、伊藤園は茶葉を生産、カゴメはトマトを加工し、サイゼリヤは日本のレストラン用に食品を生産しています。インフラ整備については、伊藤忠の淡水化プラント設立、大林組のシティリンク開発などがあり、小売部門では、無印良品・ユニクロ両社がメルボルンでオーストラリア初となる店舗をオープンしました。
その中でも半世紀以上にわたり日本とビクトリア州の関係、日豪関係を強化する上で非常に重要な役割を果たしたのがトヨタ自動車です。トヨタは2017年アルトナ工場の生産中止を発表しましたが、同社が従業員を再教育し、人生の次の段階へ移行することを全力で支援する姿勢は豪州連邦政府にも高く評価されています。私が数ヶ月前に同社幹部に会ったとき、誇りをもって「豪州で製造されるトヨタの最後の車は最高のものになります」と発言されました。私は、現地生産が終了してもなお、トヨタ車はしっかりとこの地に根差し強い存在感を保ち続けることを確信しています。
一方、多くの日本企業がサービス産業を含む分野で合併・買収を進めており、最近の日本郵便によるメルボルン拠点のトール買収はこの最たる例と言えます。日本の投資は、一般的に当地ビジネスの成長に必要な資金やサポートを提供するためオーストラリアにおいて歓迎されています。このような日本企業の対豪投資に対する関心の高まりの背景には、昨年の日豪経済連携協定(JAEPA)の調印があると言えます。JAEPAは両国にとってまさに重要なタイミングで発効しました。オーストラリアは資源ブームの終焉に伴い、経済の多様化を模索する一方、日本も長く続いたデフレ後の経済を活性化するため、様々な改革の実施に努めています。このような状況の中、JAEPAは両国のエネルギーを最も有望で革新的なセクターへと導き重要な改革を促進するための潤滑油となり、両国の長期的な経済的繁栄に貢献することとなるでしょう。また先ごろのTPP交渉の妥結はJAEPAによって提供される機会を更に拡大し、ビクトリア州の農業輸出などにも恩恵をもたらすと予想されます。
日豪両国にはさらに緊密に協力できる可能性を秘めている多くの分野があります。公共交通インフラ、都市計画などの分野で日本企業の持つ高度な技術とノウハウを提供しオーストラリアをサポートすることが可能です。例えば高速鉄道を導入することにより、地方暮らしの良さを手放すことなく都市部への通勤を続けられるというメリットも生まれます。
今日、アジア太平洋の環境変化を踏まえ、既存のルール・基盤の秩序を維持するため日豪関係、相互協力がより重要になってきています。このためには、政府間、ビジネスや社会団体だけでなく、個人レベルでも含め、多くのレベルでの緊密な協力が必要です。私はAJSV、JCCI、JSMが行っている地道な友好活動は、日豪の既に緊密な関係を更に強化し続けると確信しています。日本大使館及びメルボルンを始めとする在豪各日本総領事館はこのような日豪友好関係を促進する活動に積極的に協力して参ります。皆様には改めて、日豪両国が保有する素晴らしい可能性を最大限に活用するべく、継続的なご支援をお願い致します。